なぜ日本でIT人材不足が生じるのか?経済産業省の調査は嘘ではなかった

Rabiloo

日本ではITエンジニアが不足していて、採用が困難だと言われています。経済産業省が2018年に発表した試算によると、2030年には最大で79万人のIT人材が不足すると言われています。
これだけ聞くと、「IT人材不足は本当にそこまで深刻なのか」と疑問に思うかもしれません。
そこで本記事では、IT人材需給に関する経済産業省の調査に基づき、
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日本が抱えるIT人材不足の実情
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なぜITエンジニアが不足するのか
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IT人材難に対処する方法
こういった点について、解説します。
参照:https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/gaiyou.pdf
なぜ日本のIT人材は不足しているのか
スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した世界デジタル競争ランキング2022によると、日本は、アメリカを始め、韓国、台湾、中国などアジア各国にも大きく引き離され、2022年は過去最低の29位という結果になりました。
このように日本はIT需要に対して、人材の供給が全く追いついていないため、世界市場における競争に完全に乗り遅れているのが現状です。
日本でのIT人材の有効求人倍率は高く、エンジニア採用は完全に売り手市場となっています。
ではなぜ、日本はこれほどまでにIT人材が不足しているのでしょうか。
以下の5つの理由が関係しています。
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少子高齢化で労働人口が少ない
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IT需要の拡大
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ITリソースの8割がメンテナンスに割かれている
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戦力になるまで時間がかかる
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日本のIT教育は遅れている
少子高齢化で労働人口が少ない
一つ目の理由は少子高齢化です。2030年には高齢化率は31.8%、国民の約3人に1人が65歳以上の高齢者となる見込みです。
特に問題となっているのは、労働者人口の減少です。定年退職するIT人材と、新しく入ってくる新卒IT人材のバランスがすでに大きく崩れているため、人材不足はいっそう深刻になります。
IT需要が急速に拡大している
スマホやAIの登場を見てもわかるように、IT市場は目まぐるしく変化し、需要が日々拡大しています。このようなIT技術の急速な拡大に、技術の習得と人材の供給が追い付いていないのが現状です。
ITリソースの8割がメンテナンスに割かれている
日本企業の多くが、構築から20年以上経つ老朽化したシステムを抱えています。それらの「レガシーシステム」のメンテナンスと運用に日本のITリソース全体の約80%が割かれていると言われています。
そのため、世の中に新しい価値を生み出す先端IT人材が、アメリカなど他の国に比べてなかなか育ちません。
戦力になるまで時間がかかる
IT人材不足とは言え、未経験エンジニアは転職市場に大勢います。しかし、企業は即戦力が欲しいため未経験エンジニアを採用したがりません。
高度エンジニアは育つのに時間がかかるので、いつも不足しています。
日本のIT教育は遅れている
「日本のIT教育は世界に比べて遅れている」、これが今の日本の深刻なIT人材不足を生じさせた原因だと指摘する識者もいます。
アメリカではオバマ大統領の時代に、子供への理数系教育(stem教育)に資金を注ぎ込んでエンジニアの育成に力を入れてきました。日本では2020年にようやくプログラミング教育が義務教育で必修化になっています。
先進国の中で日本が一番ICT教育が遅れているというデータも出ています。
関連記事:【2025年の崖とは】なぜ2025年?わかりやすく解説!課題を放置する企業の未来は?
「2030年に最大79万人のIT人材が不足」というのは嘘?
「2030年に最大79万人のIT人材不足を抱える」という試算結果はかなりインパクトがあり、「嘘だろ?」と感じる方も多いかもしれません。いったいどのような根拠でこの数字が出てきたのでしょうか。
「IT人材需給」に関する経済産業省の調査からわかること
「IT人材需給に関する調査」によると、IT需要の伸びを高位・中位・低位の3つのシナリオで、IT人材の需要と供給の「需給ギャップ」を試算しています。
この需給ギャップは、「IT需要の伸び」と「生産性の上昇率」に依存しています。
要するに、それぞれの要素によって結果が大きく異なるということです。
簡単にまとめると、2030年のIT人材不足は以下のように試算されています。
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低位のシナリオ(需給ギャップが少ない):約16万人のIT人材不足
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中位のシナリオ(IT需要がある程度見込まれる):約45万人のIT人材不足
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高位のシナリオ(需給ギャップが最も多い):約79万人のIT人材不足
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IT人材の生産性が上昇:IT人材は不足しない
つまり、「必ず2030年にIT人材が79万人不足する」というわけではなく、もしIT人材の質が上がり生産性が向上するなら、供給のペースが緩やかでもIT人材不足はそこまで深刻にならないということです。
出典:経済産業省 IT 人材需給に関する調査
そもそもIT人材とは
ここで試算対象となっているIT人材とは、IT業務に携わる人材全般を指します。IT企業でソフトウェア開発などに関わる人材と、ユーザー企業の情報システム部門やITを活用する事業部門の人材が含まれています。
またこの中には、日本国内に在籍する外国人エンジニアも含まれています。しかし経済産業省の試算には、日本企業からの海外へのオフショアリングで採用する海外在住のIT人材は含まれていません。
経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によると、IT人材は以下に分類されます。
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高度(先端)IT人材
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従来型IT人材
高度(先端)IT人材
高度IT人材(先端IT人材)とは、AIやビッグデータ、IoT(モノのインターネット)など先端技術に関する市場を担うIT人材のことを言います。先端技術を使って世の中に新しい価値や、革新的なサービスを生み出す人材を特に「高度IT人材」と区分しています。
高度IT人材とは「DX推進を担えるような人材」です。
従来型IT人材
一方、従来型IT人材とは、従来型のシステム請負開発や保守・運用に携わるIT人材のことを指します。
日本に不足しているのは高度IT人材
IT技術は目まぐるしく進歩していて、IT需要もそれに伴い変化し続けています。特に先端技術の市場規模はものすごい勢いで拡大していますが、高度IT人材の需要が追いついていないのが現状です。
つまり「IT人材不足」とひとくくりに言っても、日本で特に不足しているのは先端技術を扱える「高度IT人材」です。
逆に、従来型IT人材の供給は需要に対して多く、将来余る可能性も出ています。
では、具体的にどのような分野のエンジニアが不足しているのでしょうか。
AI人材
AI(人工知能)技術の普及に伴い、AIを活用する人材の需要が増加しています。
以下はAIを活用した技術の例です。
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画像認識・顔認証システム
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AI OCR(文字認識)
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機械学習
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自然言語処理
アメリカと比較すると、日本企業におけるAI技術の活用は非常に遅れていて、課題として「AI人材が不足してる」ことが原因として挙げられています。
ソース:IPA DX白書2021 https://www.ipa.go.jp/ikc/publish/dx_hakusho.html
ビッグデータ
ビッグデータとは、インターネットなどを通して収集されてきた膨大な量のデータのことです。
以下はビッグデータの例です。
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Google検索
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POSシステムで取られた販売や顧客に関するデータ
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GPSを活用した位置情報
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SNSへの書き込みデータ
これらのデータを分析しビジネスに活用できる、データサイエンティストやデータエンジニアの需要は常に大きくなっています。
ブロックチェーンエンジニア
ブロックチェーン(分散型台帳技術)は暗号通貨やNFTに利用される非常に新しい技術で、発展途上の先端技術です。日本でブロックチェーンを扱えるエンジニアはまだ少なく、これから需要が非常に高まる分野です。
IT人材不足に対する国の取り組み
ではこの深刻なIT人材不足に、国はどのような手を打っているでしょうか。
プログラミング教育の実施
2020年度を皮切りに、日本でもようやく小中高でプログラミング教育が実施されることになりました。
また2019年に始まった、「児童生徒向けの1人1台端末と高速ネット環境を各学校に整える」というGIGAスクール構想が前倒しされて、ICTを活用した教育の整備が進んでいます。
マナビDX (デラックス)の開設
マナビDX (デラックス)とは、デジタル人材を育成するために経済産業省が令和4年(2022年)3月に開設したポータルサイトです。社会人がデジタル知識・能力を身につけるための実践的な学びの場として、さまざまな講座が用意されています。
サイト内では、DX(デジタルトランスフォーメーション)で活用されるAIなどのデジタル技術を、基礎から無料のコンテンツ(実践コンテンツは有料)を通して学べます。
マナビDX https://manabi-dx.ipa.go.jp/
国家試験の実施
情報技術の知識を見える化し、IT技術者を育成するため、国家試験を実施しています。
IT関係の国家試験
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情報処理技術者試験
- 情報処理安全確保支援士試験
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ITパスポート試験
ハイレベル若手IT人材の発掘と育成
若手の高度IT人材を発掘し育成するために合宿形式の講習会やプロジェクトを支援しています。
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セキュリティキャンプ
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U-22プログラミング・コンテスト
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未踏事業
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全国IT部活活性化プロジェクト
IT人材不足に企業はどう取り組めるか
ITエンジニアの採用が困難な状況で、企業はどのようにIT人材の確保に取り組めるでしょうか。ここで、企業が取り組めるIT人材不足への対策を6つ考えたいと思います。
採用業務にエンジニアも加える
エンジニアではない担当者がエンジニアのスキルの見極めをするのは実は難しいことです。
それでエンジニアの採用業務に実務経験のあるエンジニアを加えることで、応募者の技術的なスキルや経験をより正確に評価できます。
エンジニアはIT領域に精通しているため、求められるスキルや知識に関する深い理解があります。その結果、適切な人材を選別することができ、採用の精度が向上します。
柔軟な働き方を認める
コロナ禍でリモートワークの文化が定着しました。
ITエンジニアはパソコンとネット環境があればどこでも働けるので、リモートワークを認めたり、フレックスタイムを導入するなど柔軟な働き方を認めることで、エンジニアに働きやすい環境を提供している企業もあります。
フリーランスを使う
新たに人材を採用する代わりに、フリーランスエンジニアに外注する企業も増えています。
フリーランスを使うなら、即戦力を確保でき、人材を育成する手間と時間も省けます。
さらに、一時的な人手不足も解消できます。
レガシーシステムから脱却する
レガシーシステムとは、古い技術とプログラミング言語で20年ほど前に作られた、システムのことです。
そのようなシステムは、技術や構造が古いため、変更や更新が難しいことがあります。新しい機能を追加するためには多くの手間や時間がかかり、バグを修正するのも困難な場合があります。
また、古い技術を扱える世代のエンジニアが定年退職を迎えるため、中身がブラックボックス化することもあります。
老朽化したレガシーシステムから脱却して、メンテナンスに取られるIT人材を、先端技術の習得と育成のために有効活用していくことはこれから必須です。
外国人IT人材の獲得
優秀な外国人エンジニア採用に力を入れる企業が増えています。
外国人に採用枠を広げると、国内では確保が難しい実務経験を持った若いエンジニアを引き当てることもできます。
中国、韓国、オーストラリア、ベトナムなどのエンジニアが多くの企業で採用されています。
さらに、オフショア開発を利用する企業も年々増えています。
参照記事:オフショア開発とは?最新動向とメリット・デメリットを簡単にわかりやすく解説!
IT人材不足の影響でオフショア開発の利用が一般化している
オフショア開発とは、海外に開発拠点を置いて、IT開発を海外のITベンダーにアウトソースする開発手法です。
つまり外国人エンジニアを採用するのではなく、現地のエンジニアチームをそのまま自社の開発リソースとして活用します。
オフショア開発を導入することで、小さな案件も取りこぼさず扱うことができ、深刻なIT人材不足の解消方法として、近年非常に注目されています。
企業は採用や雇用のリスクを負うことなく、必要な時に必要なスキルを持ったエンジニアを柔軟に確保できます。
さらにオフショア開発が盛んなベトナムやフィリピンなどの国では、日本より人件費が安いため開発コストも抑えられるというメリットもあります。
しかし、コスト削減以上に注目されているメリットは、豊富なIT人材リソースです。
アジア諸国は労働者人口が多く、若いITエンジニアが毎年市場に数多く供給されています。
日本の深刻な人材不足を補うベトナムの優秀なエンジニア
オフショア開発で最も人気があるのはベトナムです。ベトナムは、平均年齢が31歳(日本は48.6歳)で労働者人口が豊富です。さらにベトナムは国策でIT人材の供給に力を入れており、優秀な若いエンジニアが豊富に生み出されています。
ベトナムのオフショア開発市場は年々拡大して、日本を主な取引先として開発実績を積んでいるため、日本企業とのやりとりにも慣れていてマネジメントしやすいのが特徴です。
ベトナムのエンジニアは向学心が強く、AI技術など先端技術のキャッチアップも早いため、高度IT人材が育っています。そのため、スピード感を持ったAI開発をベトナムに依頼する企業も増えています。
まとめ
本記事では、日本のIT人材が不足している背景や理由について簡単に解説しました。
「2030年には最大で79万人のIT人材が不足する」という経済産業省の試算は「嘘」ではなく、「IT需要の伸び」と「生産性の上昇率」をシュミレーションした高位のシナリオで生じる可能性を示したものです。
日本に特に不足しているのは、AIやビッグデータ、IoT(モノのインターネット)など先端技術に関する市場を担う高度IT人材で、変化していくIT需要に対応していくことが課題になっています。
日本では超高齢化社会が進んでいるため、即戦力の確保のために外国人エンジニアの採用や、オフショア開発の利用も視野に入れる必要があるでしょう。
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